初めて夏への扉を開いたのは、もう二十年以上前のこと。
初めてこのお店を訪れたのは、もう二十年以上も前になる。
当時中央線三鷹駅に住む大学生だったぼくにとって、青梅という終着駅は幻想そのものだった。中央線に飛び乗り、ぶらりと青梅駅まで来て初めて降りてみたとき以来、このカフェは僕の人生で最も愛しいカフェとなった。
青梅駅手前の高台のうえから線路を真下に見下ろすこの古びた建物は、もともとクリニックだったそうだ。
カフェとして開業したのは1990年ということなので、すでに30年以上青梅の地で営業していることになる。
ジブリ映画への入り口のようなこのお店を訪れたのは、夏だった。
うだるような暑さの中、お店の中に入るとクーラーはなかったのだが、全開の窓と窓の間を、なんともいえず気持ちの良い風が吹き抜けていた。
窓の外に揺れる眩しい緑のせいなのか、首を振り続ける古い扇風機のせいだったのかはわからないが、そのときから、この場所はぼくにとって「夏への扉」になった。
忙しい社会人になってからも、一年に一度くらいは、たまの休日をムダ使いして往復三時間かけてコーヒーを飲みに来た。
ときおり行き過ぎる電車のカタンコトンという音。
ぼくはここに、海を見に来ていたのかもしれない。
僕は常連ではないし、店主らしき方とまともに言葉を交わしたことすらない。
それでも、変わることも変わろうとすることもなく、夏への扉はそこにある。
ここはぼくにとって、唯一無二のカフェなのだ。
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